Tokyo Tech Talks #2:表現の設計がひらくもの
恵比寿Build+で開催したTokyo Tech Talks #2を振り返ります。Mitchell Carrollによる「データ化の過程で何がこぼれ落ちるのか」という話と、Daniel LeukによるKD/KSの紹介を通じて、表現の設計がソフトウェアにもたらすものを考える夜になりました。

3月31日、恵比寿のBuild+にて Tokyo Tech Talks #2 を開催しました。今回のテーマは Encoding the World。現実世界をどうデータとして表現するのか、そのとき何が残り、何が抜け落ちるのかを考える夜になりました。
この日のよかったところは、話の入口が違っても、最終的に同じ問いに集まっていったことです。表現の仕方はただの実装上の都合ではありません。どんな構造で世界を切り取るかによって、ソフトウェアが理解できること、検証できること、そしてチームが前に進める速さまで変わってきます。
この日のトーク
Mitchell Carroll — Data Is a Lossy Compression of Reality
メルカリのシニアプロダクトマネージャーであるMitchell Carrollは、「ソフトウェアは現実そのものを扱っているのではなく、現実を圧縮した表現を扱っている」という話をしました。データ化の過程では必ず何かを捨てていて、その捨て方が後の判断や振る舞いに効いてくる、という視点です。
とくに印象に残ったのは、会場全体を巻き込んだ簡単なワークでした。参加者はいくつかのチームに分かれ、1人がある身近な物を名前を言わずに説明し、他の人たちがその説明だけを頼りに絵を描く。ありふれた物であっても、説明だけでは思っている形がなかなか正確に伝わりません。現実が言葉やデータに変換された瞬間に、すでに情報の欠落が始まっていることを、とてもわかりやすく体感できる時間でした。
この話は機械学習に限りません。プロダクト指標、データベースの行、イベントログ、埋め込み表現、UIの状態など、私たちが普段扱っているものはすべて「何を信号として残し、何をノイズとして落とすか」という選択の結果です。
Mitchellのスライドはこちらからダウンロードできます。 Data Is a Lossy Compression of Reality
Daniel Leuk — 世界を扱うための言語設計
IkayzoのCEOであるDaniel Leukは、Ki 言語ファミリーと、その中核にある Ki Declarative (KD) と Ki Script (KS) について紹介しました。
KDは、設定やシリアライズのような用途に向いた、簡潔で型付きの宣言的な言語です。KSは同じ型や構造を共有しながら、スクリプティングへと領域を広げたもので、関数パラメータの制約や単位の扱いなども視野に入れています。文字列やJSONを何でも入る入れ物として使うのではなく、表現そのものに意味を持たせることで、読みやすさや検証しやすさが大きく変わる。そのことを改めて考えさせられる内容でした。
より詳しく知りたい方は、Kiのドキュメントを見ると全体像がつかみやすいと思います。
Keenan Thompson — KDのGo実装について
この流れの中で、DanielはArcnem AI CEOのKeenan Thompsonにも話を振り、Ki.KD-Go の実装についても触れました。KeenanはKDのGoパーサー開発にも関わっており、最初は自分で理解できているコア部分を手で書き、その上でモデルの性能向上に合わせてAIの使いどころを広げていったそうです。
大きかったのは、Kotlin版 のテストをGo側へ持ってきたことでした。テストが揃ってくると、AIを使った移植や反復はかなり進めやすくなります。重要なのは、ただ生成させることではなく、「どこに合わせるべきか」が明確になっていることでした。意味のあるテストがあると、速さは雑さではなく前進に変わります。
通底していたもの
この日の話をつないでいたのは、単なる「データ」への関心ではなく、表現がその後の可能性を決めるという感覚だったように思います。
Mitchellは、表現の過程で何が失われるのかを示しました。Danielは、より良い構造を最初から持つことで何を守れるのかを示しました。そしてKi.KD-Goの話は、そうした設計を実装に落としたときに開発の速度や確かさがどう変わるのかを補っていました。切り口は違っても、弱い表現は下流のすべてを難しくする、という点では同じ方向を向いていたと思います。
おわりに
Tokyo Tech Talksはまだ始まったばかりですが、このコミュニティの輪郭は少しずつ見えてきました。小さな会場で、実務に根ざした話を聞き、その後もしっかり会話できる場。今回も、そういう時間になったと思います。
今回来られなかった方は、ぜひ次回以降の開催もチェックしてみてください。